「太陽光パネルはリサイクルができないって本当?」
「有害物質を含んでいてむしろ環境に悪いって聞いたけど…」
太陽光パネルの導入を検討する方が増えていますが、このようなネガティブな意見を見て迷われている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、太陽光パネルは74%がリサイクルされていますが、完全な循環型リサイクル体制はまだ整っていないのが現状です。
しかし、2024年12月16日に「太陽光パネルのリサイクル義務化」の法案が提出されたことで、今後は2030年に向けてさらに制度が整えられていくことが期待できます。
そこでこの記事では、太陽光パネルの完全な循環型リサイクルを目指すうえで、障害となっている課題や現状のリサイクル状況について解説します。
太陽光パネルのリサイクルは可能だが、体制は不十分
冒頭でも述べたように、太陽光パネルのリサイクルは可能であり、現状のリサイクル率は約74%程度です。
その内訳は、上の図からもわかるように、太陽光パネルの回収量のうちリユース(再利用)が約2割、リサイクル(再生利用)が約5割を占めています。
しかし、最終処分される量も一定数存在しており、完全な循環型のリサイクル体制はまだ整っていないのが現状です。
その背景にはどのような課題があるのでしょうか。次の章で詳しく解説します。
太陽光パネルがリサイクルできないと言われている3つの理由
それでは、太陽光パネルが「リサイクルできない」と言われている3つの理由を解説します。
- 有害物質による環境への影響
- リサイクル費用の高さ
- 制度が整っていない
理由①有害物質による環境への影響
太陽光パネルの処理について一番耳にする懸念事項が、有害物質による人体・環境への影響でしょう。
全てではありませんが、太陽光パネルによっては、有害物質である鉛・カドミウム・ヒ素・セレンなどが含まれる可能性があります。
太陽光パネルにはいくつか種類がありますが、現在、最も世界で使用されている太陽光パネルはシリコン系で、主な有害物質として鉛やヒ素が含まれることがあります。
しかし、これらの有害物質の処理は非常に難しく、管理が不十分な場合、環境への影響を与える恐れがあります。
有害物質による環境への影響
太陽光パネルの廃棄が適切に処理されないと、環境や人体に有害な影響を及ぼす可能性があります。
有害物質が土壌や水質に浸透した場合、植物や動物に影響を与え、生態系全体に悪影響を与えることが考えられます。
また、焼却処理によって有害ガスが発生し、大気汚染や酸性雨を引き起こすリスクも高まります。
理由②リサイクル費用の高さ
次に、「リサイクルできない」と言われている理由の一つとして、リサイクルにかかる費用の高さが挙げられます。
太陽光パネルはガラス、アルミニウム、シリコン、希少金属など複数の素材で構成されており、これらを効率的に分離・回収するには高度な技術が必要です。
しかし、現状ではシリコンや希少金属の回収効率が低く、技術的に未確立な部分も多いため、リサイクルにかかる費用が高額となっています。
その結果、経済的な理由から適切に処理されず、不法投棄や埋立処理がされるケースも懸念されています。
理由③制度が整っていない
太陽光パネルの寿命は一般的に20〜30年とされており、2030年後半には2000年代初期に設置されたパネルが大量廃棄されると予測されています。その量は年間最大50万トンにも達すると見込まれています。
一方で、リサイクル処理施設の整備や法制度の対応が遅れているのが現状です。2023年度時点での日本のリサイクル処理能力は、年間わずか7万トン程度に留まっています。
このギャップにより、想定される排出量の増加に対応しきれず、適切に処理されない廃棄物の増加が懸念されています。
太陽光パネルのリサイクルの現状と課題
ここまでで、太陽光パネルが「リサイクルできない」と言われている理由を3つ解説しました。
それでは、太陽光パネルのリサイクルについて、リサイクル技術開発と法整備という2つの視点から現状と課題を解説します。
リサイクル技術開発の現状とこれから
太陽光パネルを重量構成比で見ると、ガラスとアルミが80%近くを占めるのがお分かりいただけると思います。
次に、太陽光パネルを構成する素材をリサイクル率の大きい順に以下の表にまとめました。
素材 | リサイクル率 | リサイクルの難易度と用途 | |
アルミ | 100% |
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ガラス | 90% |
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金属 | 80% |
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シリコン | 50%以下 |
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プラスチック | 30% |
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アルミとガラスはリサイクル率が高く、90%以上が再資源化されています。一方、シリコンやプラスチックのリサイクルは課題が残ります。
これらを踏まえ、技術開発の優先分野はシリコンとプラスチック、リサイクル効率の向上が求められる分野は金属といえます。
- 高いリサイクル率:アルミフレーム、ガラス
- 課題が多い:シリコン、プラスチック(技術革新とコスト低減が必要)
- 中間的:金属(リサイクル率は高めだが、回収コストの高さが課題)
太陽光パネルのリサイクル手順
太陽光パネルのリサイクルは主に3つの手順で行われます。
- アルミフレームの取り外し(解体・分解)
- ガラス、シリコン、金属を効率的に分離(分離)
- 素材別にリサイクル(再資源化)
まず、アルミフレームを取り外し、パネルの外枠を解体・分解します。
次に、ガラス、シリコン、金属などの素材を効率的に分離し、再利用可能な形にします。
そして、分離された各素材は、それぞれの特性や用途に応じて再資源化されます。
ガラスは建材やグラスウールに、金属は新たな製品の素材に、シリコンは新しいパネルや産業材料として再利用されます。
リサイクル技術の課題点
太陽光パネルのリサイクル技術には、素材の効率的な分離・回収とコスト削減が大きな課題として挙げられます。
現状の技術では、シリコンや希少金属の回収効率が低く、コストが高くなるため経済性に課題があります。
これらを克服するには、高純度素材を維持する新しい分離技術や、コストを削減する効率的なプロセス開発が求められます。
- 効率的な分離技術の開発:シリコンや希少金属を高純度で回収する技術の確立
- リサイクルコストの削減:経済性を高める効率的な回収プロセスの構築
太陽光パネルのリサイクルに関する法整備の現状とこれから
太陽光パネルのリサイクルに関する法整備として、リサイクルの義務化や費用負担の明確化、処理能力の強化が必要です。
現行法では、廃棄する太陽光パネルのリサイクルが義務付けられていないことや、排出業者とリサイクル業者間の費用負担が不透明であるなど、整備が整っていないのが現状です。
また、地域間で処理施設の分布に偏りがあり、輸送コストが増大する要因となっています。
太陽光パネルのリサイクル義務化
2024年12月16日に、環境省・経済産業省は「太陽光パネルのリサイクル義務化」に関する制度の中間とりまとめ案を発表しました。
この案では、太陽光パネルを適切に処理できるよう、以下の3つの観点から制度の検討が行われています。
- モノ:リサイクルの対象範囲や適切な処理の仕組みをどのように構築するか
- 費用:各処分の段階で発生する費用について、どのような負担の在り方が適切か
- 情報:適切に解体・再資源化するうえで、どのような情報が必要とされ、またどのように管理するべきか
この取り組みにより、太陽光パネルのリサイクルが義務化され、適正な廃棄・リサイクルが確実に行われることが期待されています。
太陽光パネルをリサイクル処理したいときの手順
使用済みの太陽光パネルを適正に処理する手順について、『太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン』に沿って解説します。
- リユース可否判断の依頼:中古の太陽光パネルを取り扱う業者に依頼する
- 解体・撤去工事の依頼:解体業者もしくは設置してもらった施工業者に依頼する
- パネルの処理依頼:リサイクル業者(中間処理業者)に依頼する
廃棄物等の処理の優先順位として、リユース(再使用)>リサイクル(再生利用)>熱回収>埋立処分の順に優先順位が定められています。
そのため、使用済みの太陽光パネルを処分する際は、まず再使用できるかの判断を行うようにしましょう。
そのうえで使用継続ができない場合には、適切に解体・撤去作業を行う必要があります。
リサイクル業者の調べ方は?
中間処理業者を調べたいときは、お住まいの自治体のホームページを確認しましょう。
例えば、東京都であれば、都が指定する産業廃棄物中間処理施設から中間処理業者を見つけることができます。
また、リサイクル業者の検索サイトを活用することで、全国の業者を検索することが可能です。
太陽光パネルのリサイクルについてのまとめ
太陽光パネルの寿命は20〜30年で、2030年後半にはパネルが大量廃棄されると予測され、その量は年間最大50万トンに達すると見込まれています。
現在、太陽光パネルのリサイクル率は74%程度であり、技術・コスト・制度の観点から循環型のリサイクル体制は整っていないのが現状です。
しかしながら、2024年12月16日にはリサイクル義務化に向けた法案が提出され、今後は2030年に向けてさらに制度が整えられていくことが期待できます。
もし太陽光パネルの処分を考えている場合は、今回の記事を参考にして、適切な処理をしましょう。
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